生活保護を受けていると色々な制約がありますが、ケースワーカーが自宅にやってきて生活状況などを調査する「訪問」を受けなければならないのもそのひとつです。
高齢の一人暮らし、話相手が欲しい人にとっては楽しみのひとつになることもあるのかもしれませんが、「何か注意されたらどうしよう」「酒瓶片づけなきゃ」「部屋に他人が入るのがストレス」などと感じる人も少なくありません。
生活保護を受けている人の中には、何かと理由をつけて訪問を断る人が一定数います。「訪問」と言うだけでとんでもない剣幕で怒鳴りだす人も。けれど、生活保護法では、毎年、訪問調査を行うことがケースワーカーの義務として位置づけられています。
今回は、「定期訪問は断ることができるのか」と疑問を持つ方に、訪問と生活保護の関係について紹介します。
定期訪問は断れるの?
「体調が悪いから」「入院が決まったから」「病院に行くから」等の理由で断ることはもちろん可能ですが、生活保護受給者には、訪問を受け入れる義務があります。また、訪問をするのがケースワーカーの義務でもあります。
このため、訪問を断り続けていると、「いつなら可能か」としつこく連絡がきたり、突然家にやって来ることも。
ケースワーカーには生活保護受給者の家への「立入調査権(生活保護法28条)」があり、正当な理由なく訪問を拒否し続けていると、生活保護を廃止にすることも法律上は可能なのです。
私もこれまで、何度かそのような人を見てきました。
例えば、収入申告をしていないことについてケースワーカーから問い詰められた中年の中国人女性。追及から逃げたいためなのか、収入申告を指摘されて以降、担当ケースワーカーの連絡を無視するようになり、訪問に行っても誰も出なくなりました。けれど郵便物が溜まっている様子はないし、電気メーターは動いている様子。ケースワーカーはなんとかして接触しようと、大家さんに連絡したり手紙を何通も送ったりしましたが音沙汰はなし。この女性は連絡が取れなくなってから保護停止となり、しばらく連絡を待っても連絡してこなかったので廃止になっていました。
訪問の頻度はどれくらい?
毎年4月頃、ケースワーカーが1年間の訪問の計画を立て、これにそって担当地区を訪問していきます。生活保護法では、一年間に少なくとも2回以上の訪問調査を行うことがケースワーカーの義務とされていますが、訪問の頻度は受給者の年齢や生活状況によって違います。
生活保護受給世帯の状況 | 訪問頻度 |
---|---|
短期間で自立が見込めそうな世帯 | 月に1回程度 |
仕事できるのに仕事をしていない若者がいる世帯 | 3か月に1回程度 |
65歳以上の高齢世帯 | 半年に1回程度 |
病気で働けないまたはできる範囲で仕事をしている世帯 | 半年に1回程度 |
病気で長期間入院している患者 | 1年に1回 |
施設に入所している | 1年に1回 |
生活態度に問題のある人や若くて自立ができそうな人は訪問頻度が高くなるし、施設に入っていたり長期間入院しているような人は一年に1回になることもあります。
多くの人は、半年に一回程度の訪問を受けています。
訪問を拒否し続けたらどうなる?
ケースワーカーの訪問は拒むことができません。
訪問を受ける義務を果たさずにいると、最悪の場合下のような経過を辿ります。
- 頻繁に訪問の手紙が投函されるようになる 「〇月〇日に訪問に伺いますので在宅してください」「〇月〇日に訪問しましたが不在でしたので連絡してください」など、訪問に関連する手紙が自宅に頻繁に投函されるようになります。
- 頻繁に連絡がくる 手紙に応じないでいると、電話がかかってきます。もしかしたら具合が悪いのかもしれない、どこかへ行ってしまってもう部屋には住んでいないのかも?様々なケースを想定して、とにかく居場所を確認しようと連絡がきます。
- 期限までに訪問に応じるように指導指示書が発行される 手紙にも電話にも応じずにいると、「〇月〇日までに福祉事務所に来るように」「〇月〇日までにケースワーカーの訪問に応じるように」といった趣旨の「指導指示書」が自宅に郵送されます。「指導指示書」とは、生活保護受給者が義務を果たすように指示する通知書。ただの紙ではなく、従わなければ生活保護を停止にしたり廃止にしたりできる効力があります。
- 生活保護が停止または廃止される 「指導指示書」に従わなかったことを理由に生活保護が停止になったり廃止されたりしてしまいます。
指示書が出されてから指示に従っても、また指示に従わなくなると停止や廃止になってしまいます。
訪問調査は何分くらいかかる?
一回の訪問にかかる時間は、5分~1時間と、幅が広いです。
例えば、特に問題のない高齢一人暮らしの生活保護受給者ならすぐに終わるし、生活上の問題がたくさんあって指導や確認が多く必要な受給者だと長くなります。
しかし、大抵の場合は何件かまとめて訪問にまわっているので、一件にそこまで多くの時間をとれません。効率的に訪問を回るため、早く切り上げようとするケースワーカーの方が多いのが現状です。
中には話し出すと止まらない人もいて、切り上げ方に困ることも。
訪問では何を見ているの?
生活保護法では、訪問の目的を「生活状況等を把握し、援助方針に反映させることや、これに基づく自立を助長するための指導を行うこと」としています。
つまり、どんな生活をしているのかを見て、自立してもらうためにどんなサポートをしていくべきかを調べることが目的なのです。
訪問では、主に下のようなことを見ています。
本人が申告した場所でちゃんと暮らしているか
「無断で海外に長期間旅行していた」「本当は別の場所で暮らしているのに、そこで暮らしているふりをして生活保護費を不正に受け取っていた」「部屋の中で死んでしまっていた」「実は同居人がいた」などがないか確認します。
こういったことを調べるため、事前に連絡もなく、突然抜き打ちで訪問に来ることもあります。
健康状態に問題はないか
よくあるのはアルコール依存症です。訪問してみたら部屋の中は酒瓶だらけ。
こんな場合は早急に医療機関につなぎます。
また、体の不調があるのに医療機関にかかっていない場合は、病院を紹介したりもします。
お金の管理ができているか
生活保護費をしっかり管理できているかも確認します。家計簿を見たり、通帳残高を見たりすることも。
あればすぐに使ってしまうなど、お金の管理ができず、生活もままならない状態だと判断されると、施設への入所を進められることもあります。
介護や医療などの必要なサービスを受けているか
高齢で一人で歩けない人には介護サービスを、処方された薬をしっかり飲めていないような人には訪問看護など、その人に必要なサービスがあるか確認します。
訪問は怖くない!
他人が部屋に上がることに抵抗感があってケースワーカーの訪問が嫌だと思う人も多いです。相性のあまりよくないケースワーカーに当たってしまった場合には、余計にストレスが溜まるかもしれません。けれど、ケースワーカーとうまく付き合っていくことも時には大切です。最近では上から目線の横柄なケースワーカーは少なくなってきているので、そんなに難しいことではありません。家庭訪問も生活保護受給者の義務だと思い、快く受け入れましょう。
コメント